イエメン共和国は、エチオピアと並んで世界で最も古いコーヒーの歴史を持つ国として有名です。
このイエメンでは17世紀になると、世界各地に向けて「モカ港」からコーヒー豆の輸出が始まりました。このように、世界で初めて商業的なコーヒーの輸出を行ったのがイエメンであり、コーヒー文化を世界中に広げた国とも言えます。
そんな歴史の古いイエメンのコーヒーの中でも最高等級に位置し、知名度も人気も高いものが「モカマタリ」です。日本では、「コーヒールンバ」に出てくるコーヒーとして、今も尚、人気を集めるコーヒーですよね。
今回は、この「モカマタリ」について、ご紹介していきたいと思います。
モカマタリとは?
イエメンコーヒーのモカマタリとはどのようなコーヒーなのでしょうか?早速ご紹介していきましょう。
モカマタリの特徴・生産地
モカマタリの生産地は、イエメンの首都であるサナアの南西に位置する「バニーマタル地方」の山岳地です。バニーマタル地方は、標高1,000~3,000mの山岳地帯であり、この急斜面を利用した段々畑で栽培されています。
「バニーマタル」は、アラビア語で「雨の子孫達」という意味を持っており、その名前の通り降雨量が多い地域です。また、多くの霧が発生することでも有名です。
そのため、この地域のコーヒーノキは原生種に非常に近い木であり、原生種だけが持つ独特な「モカ」の香りと、フルーティーな甘酸っぱさが特徴的です。また、イエメンの他のアラビカ種と同じように、丸型が特徴的なショートベリーです。
栽培方法は、昔ながらの農法を引き継いで行われています。
化学肥料を使わずに有機農法で栽培し、赤く熟した実は一つ一つ丁寧に人の手により摘み取られます。そして、精製工程では乾燥式を用いています。乾燥式とは、収穫したコーヒー豆を天日干しにしてから、1週間程度乾燥させる方法です。この乾燥式を用いることで、バニーマタル地区のコーヒー豆独特の風味や香りを、更に凝縮させることができます。この乾燥式の精製方法は、砂漠気候であるイエメンのような雨季と乾季がはっきりとした地域でしかできません。
その後の脱穀の工程も昔ながらの石臼を用いて脱穀する方法であるため、コーヒー豆が割れたりかけたりしてしまいます。しかし、これもまた、モカマタリ独特の味と香りを生んでいます。
このようにモカマタリは、17世紀にモカ港から輸出されたころから、ほとんど品質が変わらないまま現在も栽培されている、とても貴重なコーヒー豆です。
コーヒー豆は一般的に品質により等級が決まりますが、イエメンのコーヒーは品質ではなく生産地により格付けされることでも有名です。
このバニーマタル地方で生産された「モカマタリ」こそが、最高等級に位置しています。また、「モカマタリ」の中でも、グレード分けされており、上からNo.9~No.6となっています。
モカマタリは品質が高いことはもちろんですが、栽培が難しい段々畑で栽培されていること、昔ながらの農法で丁寧に栽培されていることなどから、希少価値がとても高いコーヒー豆です。
また近年では、イスラム教徒による内戦や、コーヒー豆からカートという作物(噛む嗜好品)への転作などもあり、モカマタリの生産量は年々減少の道をたどっているため、モカマタリの値段が高騰してしまっているのが現状です。
モカマタリの味・香り
モカマタリは、爽やかなブルーベリーやオレンジにも似た酸味の後に、ほんのりとした優しい甘みとコクが感じられるのが特徴です。
そしてなんといっても、モカ独特のカカオの香りと、フルーティーなワインのような香り、更にはスパイシーな香りが鼻に抜けるのが一番の特徴といえます。
とてもバランスが取れたコーヒーで、世界中から人気があるコーヒーです。
モカマタリとモカの違い
それでは次に、モカマタリとモカの違いについてご説明していきましょう。
冒頭でもお話ししたように、コーヒー豆は、世界各地に向けてイエメンの「モカ港」から輸出され始めました。この時、モカ港から輸出されたイエメン産とエチオピア産のコーヒー豆を港の名前から、「モカ」と呼ぶようになりました。
これが現在でも続いており、イエメン産とエチオピア産のコーヒー豆のみを「モカ」と呼んでいます。
そして、これらの「モカ」を区別するために、生産地名をつけて呼ぶようになりました。
その為、「モカマタリ」は先ほどお話ししたように、「バニーマタル」で生産されていることからこのように呼ばれています。
その他にも、イエメンではサナア地区で生産されたものは「モカサナニ」、ハラズ地区で栽培されたものは「モカハラズ」等と呼ばれています。また、エチオピアでも、ハラー地区で栽培されたものは「モカハラー」、シダモ地区で栽培されたものは「モカシダモ」等と呼ばれています。
モカマタリ アールマッカとは?
モカマタリの中から、コーヒー豆の品質が良く大きいもの、欠点豆の少ないものだけを手作業で選別して極上豆だけを集めたものを、アールマッカと呼びます。
イエメンでのコーヒー豆の格付けは、このアールマッカの下に、先ほどお話しした「モカマタリNo.9」、「モカマタリNo.8」、…と等級付けされていきます。
このアールマッカこそが、コーヒーの歴史の最も古いイエメンの最高級コーヒーなのです。
モカマタリのおすすめの淹れ方
モカマタリは豆ごとにサイズや形が異なっているのが特徴なので、まずはハンドピックしてから焙煎する必要があります。しかし、ハンドピックしすぎるとモカマタリ独特の風味や香りが薄くなってしまい、せっかくのモカらしさが楽しめなくなってしまうので注意が必要です。
焙煎する際は、シティーロースト~ハイローストに焙煎するのがおすすめです。このように焙煎すると、モカマタリの爽やかな酸味と、深い香りが引き立ち、苦みを感じることなくすっきりと味わえます。
モカマタリ(イエメンコーヒー)情報まとめ
今回は、イエメンコーヒーのモカマタリについてご紹介しました。
500年以上変わることなく守られ続けてきた「モカマタリ」の魅力を存分に知っていただけたのではないでしょうか。
是非、コーヒーの歴史の原点の味「モカマタリ」を一度味わっていただきたいと思います。